東京地方裁判所 昭和58年(ワ)5732号 判決 1985年1月21日
原告
伊藤光義
被告
中野道門
ほか三名
主文
一 被告らは連帯して、原告に対し、金二〇八七万二〇八九円及びこれに対する昭和五八年六月一八日から各支払済に至るまで年五分の割合の金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。
四 この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して、原告に対し、金二四五〇万六三七二円及びこれに対する昭和五八年六月一八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五七年六月二八日午後七時一五分ころ
(二) 場所 東京都江戸川区西瑞江三丁目一三番地先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車両 (1) 普通貨物自動車(習志野四四ゆ八六五〇号、以下「村松車」という。)
右運転者 被告村松眞彦(以下「被告村松」という。)
(2) 軽四輪乗用自動車(八足立せ四三一号、以下「中澤車」という。)
右運転者被告中澤良和(以下「被告良和」という。)
(四) 被害車両 自動二輪車(瀬戸市に九九六号)
右運転者 原告
(五) 事故態様 原告が被害車両を運転して本件事故現場の交差点で右折のため合図を出して停車中、右方道路から中澤車が一時停止義務を怠つて右交差点に進入したため、折柄被害車両の対向車線を右交差点に向け進行してきた村松車が中澤車との衝突を避けるため中央線を越え原告車の車線内に進出して同車と正面衝突した(以下右事故を「本件事故」という。)。
2 責任原因
(一) 被告良和は、中澤車を運転して本件交差点に進入するに際し一時停止義務に違反した過失により前記のとおり本件事故を惹起したものであるから、同被告は民法七〇九条の規定に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(二) 被告中澤マツ(以下「被告マツ」という。)は、中澤車を所有し、これを自己の運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の規定に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(三) 被告村松は、村松車を運転して本件事故現場手前に至り徐行義務、前方及び側方の注意義務を怠つた過失により前記のとおり本件事故を惹起したものであるから、同被告は民法七〇九条の規定に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(四) 被告中野道門(以下「被告中野」という。)は村松車を自己の運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の規定に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
3 原告の受傷及び治療経過
原告は、本件事故により頭蓋内損傷、外傷性硬膜下水腫、右大腿骨転子貫通骨折、歯牙欠損の傷害を受け、昭和五七年六月二八日から昭和五八年三月一〇日までの間森山病院で、同年一月三一日から同年八月二一日まで東京警察病院多摩分院でそれぞれ入院のうえ治療を受け、以後自宅療養を続けたが、治癒せず、同年一一月一五日症状が固定し、右側同名半盲、複視、右側視神経萎縮、両眼視力低下(〇・二以下)、記銘力低下、右股関節の著しい運動制限と運動痛、右膝関節の運動制限、右下肢短縮二センチメートル、歯牙欠損(一二歯)歯科補綴(一八歯)の後遺障害が残り、以上は併合して自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表七級に該当する。
4 損害
(一) 付添費用 金三二八万六四一六円
原告は前記受傷の部位・程度からして昭和五七年九月二一日から昭和五八年八月二一日までの間付添看護が必要な状態にあり、職業付添人である原告の妻の付添を受けたが、付添費用として金三二八万六四一六円を要した。
(二) 入院雑費 金四二万二〇〇〇円
原告は前記入院期間(四二二日)中、雑費として一日当たり金一〇〇〇円を要したので、その合計は金四二万二〇〇〇円となる。
(三) 休業損害 金四三三万六四三五円
原告は大正一五年三月三〇日生れの男子で本件事故当時大工として稼働し日額金八五八七円の所得を得ていたところ、本件事故による受傷のため昭和五七年六月二九日から症状固定日である昭和五八年一一月一五日までの五〇五日間休業を余儀なくされ、その間得べかりし所得を喪つたから、これを基礎として原告の休業損害を算出すると、金四三三万六四三五円となる。
(四) 逸失利益 金一三五五万三五二一円
原告は、症状固定時五七歳であり六七歳までの一〇年間稼働可能であるところ、前記後遺障害が残つたため右期間その労働能力を五六パーセント喪失したのであり、前記日額所得を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して、原告の逸失利益の症状固定日翌日における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金一三五五万三五二一円(一円未満切り捨て)となる。
計算式 8,587×365×0.56×7.722=13,553,521
(五) 慰藉料 金九一三万八〇〇〇円
原告の前記受傷の内容・程度、入通院治療期間、後遺障害の内容・程度等の事情によれば、原告の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、傷害分が金二四五万円、後遺障害分が金六六八万八〇〇〇円が相当である。
(六) 損害のてん補
原告は、加害車両の加入する自賠責保険から金八三六万円の、被告村松から金一六万円の、各支払を受けた。
(七) 弁護士費用 金二二九万円
被告らが損害額の任意支払に応じないため、原告は原告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任することを余儀なくされた。本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、金二二九万円が相当である。
(八) 結論
以上の(一)ないし(五)及び(七)の合計額から(六)のてん補額を控除すると残額は金二四五〇万六三七二円となる。
5 そこで原告は被告らに対し、連帯して金二四五〇万六三七二円及びこれに対する被告らに対し本訴状が送達された日の翌日以後の日である昭和五八年六月一八日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告良和及び同マツ)
1 請求原因1の事実中、(一)ないし(四)の事実は認め、同(五)の事実中中澤車が一時停止義務を怠つた点、村松車が中澤車との衝突を避けるためとの点は不知、その余は認める。
2 同2(一)の事実中、被告良和に本件事故発生につき過失があるとの点は否認し、同2(二)の事実中被告マツが中澤車の運行供用者であることは認め、その余は不知。
3 同3の事実は不知、同4の事実中、(六)は認め、その余は不知。
(被告中野及び同村松)
1 同1の事実中、(一)ないし(四)の事実は認める。同(五)の事実中被害車両が右折の合図を出して停車中との点は否認し、その余は認める。
2 同2(三)の事実中、被告村松に本件事故発生につき過失があることは否認する。同2(四)の事実中被告中野が村松車の運行供用者であることは認める。
3 同3の事実中、原告が本件事故により傷害を負つたことは認め、その部位及び程度は不知。
4 同4の事実は不知。
三 抗弁
(被告マツ)
1 免責
(一) 本件事故は、被害車両と村松車が衝突したもので中澤車は被害車両と衝突していないところ、被告良和は本件交差点の手前で一時停止の標識に従つて停止後、右方から進行してきた村松車より先に左折進行すべく時速約五ないし六キロメートルの緩い速度で発進したが、村松車の接近に伴い直ちに停止しており、右停止地点は本件交差点内に約一・五メートル進出(中澤車前部先端)したにすぎなかつた。従つて村松車は反対車線へ多少ふくらむことはあつてもさほど入り込むことなく中澤車の前方を通り抜けて直ちに自車線へ戻ることが十二分に可能であつた。
(二) 以上より本件事故は被告村松の一方的過失により発生したもので、被告良和及び被告マツには中澤車の運行に関し注意を怠つた点はなく、また仮に被告良和に多少の過失があつたとしても右過失と本件事故発生との間には何らの因果関係もない。そして、中澤車には構造上の欠陥及び機能の障害はなく、かつその有無と本件事故発生との間には何らの因果関係もないから、被告マツは自賠法三条但書により免責される。
(被告ら)
2 過失相殺
原告は被害車両を運転して本件交差点を右折するに際し、午後七時一五分で薄暗い状況であつたのに無燈火で方向指示器も出していなかつた過失があり、これが本件事故発生の一因を成しているから、原告の損害額から相当の過失相殺をすべきである。
3 既払
(一) 被告村松は、損害のてん補として、原告に対し、昭和五七年一〇月二一日に見舞金名下に金二〇万円、同年一二月二八日に同名下に金三〇万円、また付添看護料として金八七万三四五七円を支払つた。
(二) 被告中野は、損害のてん補として、原告に対し、入院保証金として金五万円、雑費分として金三万円を支払つた。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1及び2の事実はいずれも否認する。
2 抗弁3(一)の事実中、付添看護料金八七万三四五七円の支払は認める、ただし右看護料は昭和五七年六月二八日から同年九月二〇日までの分であり本訴において請求していないものである。また見舞金二〇万円の支払は否認する。右は昭和五七年九月一日から同月二〇日までの看護料として支払われたものである。見舞金名下に金三〇万円の支払があつたことは認める。同3(二)の事実は不知。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)の事実及び同2(二)の事実中被告マツが中澤車の、同2(四)の事実中被告中野が村松車の各運行供用者であることは各当事者間に争いがない。同1(五)の事実中、中澤車が一時停止を怠つたこと、村松車が中澤車との衝突を避けるため反対車線に進行したことを除く事実は原告と被告良和及び被告マツ間に争いがなく、また同1(五)の事実中被害車両が右折の合図を出して停車中であつたことを除く事実は原告と被告村松及び被告中野間に争いがない。
二 事故態様及び免責・過失相殺の抗弁について判断する。
成立に争いがない甲第一五号証、乙第二号証、丙第二、第三号証、証人小須田正美、同中沢恭子の各証言、被告村松眞彦、同中沢良和各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、
1 本件事故現場は、別紙図面のとおりで、明和橋(南西)方面から南篠崎町(北東)方面に通じる車道総幅員約六・二メートル、片側一車線で追越しのための右側部分はみだし禁止の規制がされ、南篠崎町方面車道(以下「左車線」という。)の幅員が約三・二メートル、明和橋方面車道(以下「右車線」という。)の幅員が約三メートルのアスフアルト舗装された平坦な直線道路(以下「甲道路」という。)と新中川(西)方面から本件交差点に至る車道幅員約四・三メートルのアスフアルト舗装された平坦な直線道路(以下「乙道路」という。)及び同交差点から南方及び東方に通じる二本のアスフアルト舗装された直線道路が交差する変形交差点で、甲道路の両側には歩道(北東側歩道の幅員は約四・三メートルで車道寄りに植木があり、南西側歩道の幅員は約二メートルである。)が設置され、甲道路明和橋寄り(幅員約四・四メートルのもの)及び乙道路(幅員約四・五メートルのもの)の交差点手前にはそれぞれ横断歩道が設置され、乙道路の交差点手前には一時停止の標準があり同道路の右横断歩道西端から約三・六メートル更に新中川寄り地点に停止線が標示されている。最高速度は甲乙両道路とも時速三〇キロメートルに規制されている。
2 被告良和は、中澤車を運転して乙道路を新中川方面から走行してきて本件交差点を左折し甲道路南篠崎方面に進行するに際し、本件交差点の手前の前記停止線で一時停止の標識に従い一時停止したうえ、同所からは甲道路右方向の見とおしが悪いため更に同地点から約八メートル先の地点に進んで改めて一時停止し右方の状況を確認したところ約一八・三ないし二五メートル先に村松車が接近中であるのを認めたものの同車より先に左折を完了できるものと速断して発進を開始し、約一・三メートル進行した地点で村松車が約七・三メートルの距離にまで接近したのを発見して危険を感じ直ちに制動の措置をとつて約一メートル先(中澤車の前部先端が甲道路左車線側端から約一・五メートル交差点内に進出した位置)に停止した。その結果甲道路左車線の車両通過可能な部分は約一・七メートルに狹められた。
3 被告村松は、村松車を運転して甲道路左車線を明和橋方面から南篠崎町方面に向け時速約三五キロメートルで進行し、前方約一八・三ないし二五メートル先の乙道路本件交差点手前に中澤車が停止しているのを認めたが、同車は自車の通過を待つものと軽信し、何らの合図を送ることもなくそのままの速度で進行を続けたところ、約七・三メートルの距離に接近して中澤車が発進して交差点内に進出するのを発見し、同車との衝突の危険を感じ、とつさに右転把して対向の右車線に入り、その側方を通過しようとした。同被告は、右車線を約一二・二メートル進んだ地点で折柄同車線のほぼ中央付近を南篠崎町方面から明和橋方面に向け進行中の被害車両を約八・二メートル先の地点に発見し直ちに急ブレーキをかけたが間に合わず、約四・一メートル先の地点で同車と正面衝突し、被害車両を押し戻しつつ更に約八メートル進んで被害車両の後方から追従し村松車の自車線への進入に気付き急ブレーキをかけて停止ないしその寸前の状態にあつた訴外太田誠運転の普通乗用自動車(足立五六ゆ七五二二号)と被害車両を挟み込んだ状態で衝突して停止した。
以上の事実が認められ、前記証拠中右認定に反する部分は叙上認定に供した各証拠に照らして直ちに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右事実によれば、被告良和には村松車の動静を十分注視せずに村松車の進路に進出しその進行を妨害した過失があり、他方被告村松にも中澤車の動静不注視、対向車線前方の安全不確認の過失があつて、右各過失と本件事故発生との間には因果関係があるというべきである。
したがつて、被告良和、同村松はいずれも民法七〇九条の規定に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
そしてまた、被告良和及び同マツが中澤車の運行に関し注意を怠らなかつたことないし被告良和の過失と事故発生との間に因果関係のないことを認めるに足りる証拠はないから、被告マツの免責の抗弁は理由がないこととなり、被告マツは自賠法三条の規定に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
被告中野は、前記のとおり村松車の運行供用者であるから自賠法三条の規定に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
次に過失相殺の主張について判断するに、前記事実によれば、本件事故は被害車両が甲道路の右車線を進行中(なお同車が薄暗い道路状況下において無燈火で走行していたと認めるに足りる証拠はない。)、近距離で村松車が突然対向車線から自車線内に進出したため発生したものであつて、原告には過失相殺の対象となるべき不注意の存在を認めることはできず、被告らの右主張は理由がない。
三 成立に争いのない甲第五、第六、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証、証人伊藤祐子の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、その主張のとおり本件事故により頭蓋内損傷等の傷害を受けて事故発生日から昭和五八年八月二一日まで各病院で入院(合計四二〇日間)治療を受け、以後自宅療養を続けたが、治癒せず、右側同名半盲、複視、視力低下(裸眼左右共〇・二、矯正右〇・九、左一・〇)(以上は昭和五八年八月二〇日固定)、また記銘力低下、右股関節の著しい運動制限(自動が屈曲八〇度、外転二五度、内転三〇度、外旋四〇度、内旋一〇度、他動が屈曲九〇度、外転二五度、内転三〇度、外旋四〇度、内旋一〇度)及び運動痛、右膝関節の運動制限(屈曲が自動で一二五度、他動で一三五度)により正座困難、あぐら不可能、和式トイレ使用不可能、くつ下をはけない。右下肢短縮二センチメートルで軽度の跛行(以上は同年一一月一五日固定)、歯牙欠損(事故により四歯の歯冠部の四分の三以上を失い、歯科補綴上一二歯を抜歯)、欠損部に義歯装着(以上は同年五月一三日固定)の後遺障害が残存し、これが自賠責保険により原告主張のとおりの後遺障害等級(七級)と認定されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
四 損害
1 付添費用 金三二七万六六三五円
成立に争いのない乙第一号証の一ないし七、被告村松との間では成立に争いがなく、その余の被告との間では証人伊藤祐子の証言により真正に成立したと認められる甲第七号証の一ないし七、証人伊藤祐子の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は前記入院期間のうち昭和五七年九月二一日から昭和五八年八月二一日までの三三五日間(それ以前の付添費用は被告村松において支払済)付添看護を要する状態にあつたため、職業付添人である原告の妻伊藤祐子の付添を受け、付添費用として一日当たり金九七八一円を要したことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)から、付添費用の合計は金三二七万六六三五円となる。
2 入院雑費 金四二万円
原告は前記入院期間(四二〇日)中、雑費として一日当たり金一〇〇〇円を要したことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、その合計は金四二万円となる。
3 休業損害 金四二一万九八六二円
成立に争いのない甲第一号証、証人伊藤祐子の証言により真正に成立したと認められる甲第八号証、証人伊藤祐子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は大正一五年三月三〇日生れの男子で事故当時大工として稼働し、年額金三〇五万円の所得を得ていたところ、本件事故による受傷のため本件事故発生日の翌日である昭和五七年六月二九日から症状固定日である昭和五八年一一月一五日までの五〇五日間就労不能となりその間得べかりし所得を喪失したことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)から、これを基礎として原告の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、金四二一万九八六二円(一円未満切り捨て)となる。
計算式 3,050,000÷365×505=4,219,862
4 逸失利益 金一一七七万五五九二円
証人伊藤祐子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記後遺障害のため症状固定後においても稼働しておらず、外出もたまにリハビリをかねて短時間杖をついて散歩をする程度の状態であることが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、原告の職業(大工)年齢(症状固定時五七歳)、前記後遺障害の内容・程度等の諸事情も考慮すると、原告はなお六七歳までの一〇年間稼働可能で、その間前記障害のため労働能力の五〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そこで原告の前記年収を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して原告の逸失利益の症状固定日翌日における現価を算定すると、次の計算式のとおり、金一一七七万五五九二円(一円未満切り捨て)となる。
計算式 3,050,000×0.5×7.7217=11,775,592
5 慰藉料 金八五〇万円
原告の前記受傷の部位・程度、入院治療期間、後遺障害の内容・程度その他諸般の事情に鑑みると、本件事故により被つた原告の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、傷害分が金二〇〇万円、後遺障害分が金六五〇万円と認めるのが相当である。
6 損害のてん補
(一) 原告が加害車両の加入する自賠責保険から後遺障害分として金八三六万円の、被告村松から金一六万円の、各支払を受けたことは原告の自認するところである。
(二) 抗弁3(一)の事実中、被告村松が原告に対し、昭和五七年一二月二八日に金三〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。同事実中、同被告から原告に対し付添看護料として金八七万三四五七円が支払われたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第一号証の一ないし七及び証人伊藤祐子の証言によれば右の金額は付添看護料のうち本訴で請求されていない昭和五七年六月二八日から同年九月二〇日までの分のものとして支払われたものであることが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)から、これを損害のてん補として前記損害額から控除することは相当でない。
また昭和五七年一〇月二一日被告村松から原告に対し金二〇万円が支払われたことは当事者間に争いがなく、被告村松本人尋問の結果中には右金員は生活費の一部として支払われたものであるとの部分があるが、証人伊藤祐子の証言により真正に成立したと認められる甲第一六号証及び証人伊藤祐子の証言中には、右金員は前記付添看護料八七万三四五七円のうち昭和五七年九月一日から同月二〇日までの分金一九万五六二〇円が端数を切り上げた上遅れて支払われたものであるとの記載ないし供述部分があることに照らし、前記証拠の存在のみをもつてしてはいまだ被告主張の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(三) 抗弁3(二)の事実につき、証人小須田正美の証言中には、被告中野から原告に対し、入院保証金五万円と雑費五万円が支払われている旨の供述部分があるが、伝聞であつて、証人伊藤祐子の証言に照らしても直ちに措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
(四) 以上のとおりで、本件訴訟において損害のてん補として損害額から控除される金額は合計金八八二万円となる。
7 以上1ないし5の合計額から6の金額を控除すると残額は金一九三七万二〇八九円となる。
8 弁護士費用
本件事案の難易、審理経過、認容額、その他諸事情を考慮すると、本件事故との間に相当因果関係のある弁護士費用は金一五〇万円が相当である。
9 右7と8の金額を合計すると、金二〇八七万二〇八九円となる。
五 以上の次第で、原告の被告らに対する本訴請求は、連帯して金二〇八七万二〇八九円及びこれに対する被告らに対し本訴状が送達された日の翌日以後の日であることが記録上明らかな昭和五八年六月一八日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由なしとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本久)
別紙図面
<省略>